エンドロールは余白の時間
昨日映画館で映画を観た。「パターソン」という映画である。傑作!というほどではないが,平平凡凡な生活の愛おしさや可愛らしさを感じさせる作品だった。作中に出てくる詩を嗜んでいればもっと面白かったと思う。
鬼才ジム・ジャームッシュ監督最新作『パターソン』/8月26日より公開
映画の感想はさておき,エンドロールをぼんやり眺めながら,「エンドロールは私にとって余白の時間なのだな」と思った。
黒い画面にキャストやスタッフの名前が流れていく。英語で書かれていたら読めないし,日本語で書かれていてもずらずら並んだスタッフの名前全てに目を通すのは無理だ。知り合いが一スタッフとしてクレジットされるならば目を皿にして探すかもしれないが,そんな経験はないので実際どうかは分からない。そういうわけで,私はエンドロールで流れる文字に焦点も合わさずぼんやり画面を見ていることが多い。
その間に,観ていた映画のことや,思い浮かんだ単語や,これからの予定など,とりとめのないことが頭の中に浮かんでは消える。
ノートの切れ端やメモ帳に,今考えていることを書き出してみると,書き出したことで頭の中が整理されてそのメモ自体はもう見ない,なんてことが私にはよくあるのだけど,エンドロールで言葉が浮かんでは消えていくのはそれに似ているなぁと思った。
エンドロールの最中に浮かんでくる言葉も,同じように,ノートの隅っこやチラシの裏に書いてはそのうち忘れるかなくしてしまうかする類の言葉だ。けれど,そんな風に言葉を並べることで,その映画やそれを見た自分についての考えをまとめようとするのだと思う。そして,考えがまとまったり,別の考えに移ったりする間に,浮かんだ言葉は消えていく。「パターソン」のエンドロールの最中でも何かを考えたのは覚えているが,案の定どんな言葉を並べたかはほとんど覚えていない。
その映画を観に行く前に,UNISON SQUARE GARDENの田淵さんとLiSAさんのラジオでの対談を聞いたのだけど,田淵さんはそこで曲を思いつく場面について,映画のエンドロールの最中に,言葉と一緒にメロディが浮かんでくるというようなことを話していた。エンドロールで流れている曲とは全然違う曲が頭の中で流れるらしい。それをエンドロールを眺めている最中に思い出して,ここを余白として利用しているのは私だけじゃないのかもしれない,なんてことを思ったりもした。
先ほども書いた通り,そういうノートの切れ端に並べた言葉のほとんどはすぐに忘れてしまう。忘れちゃったら意味ないじゃんと思われるかもしれないけど,そうじゃないのだ,説明できる形でなかなか残らないだけで,ちゃんと私の思考のどこかに忘れてしまった言葉は埋まっていて,それを含めて私の思考なので,忘れては意味がないなんてことはないはずなのだ。
それに,そんな風に余白で生まれた言葉が,こうして多少なりとも形を整えられて文章となることも時々はあるので,全部忘れているわけではないということで許してほしい。
最後に蛇足的なものを書いてしまったけど,結局何が言いたかったかと言うと,「エンドロールは余白の時間」って言葉,なんかちょっとかっこよくないですか?Uh-huh? ということでした。
おわり。
UNISON SQUARE GARDEN『新世界ノート』『流星前夜』
未だに探り探りの感想文ですが、コンスタントに書いていきたいとは思っています。
UNISON SQUARE GARDEN『新世界ノート』 7.2/10.0
- アーティスト: UNISON SQUARE GARDEN
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インディーズ時代のミニアルバムその一。今との一番の違いはやはり斉藤さんのボーカルでしょう。野性味に溢れる刺々しさは若さや勢いを存分に感じる一方で、この歌い方のまま歌い続けたら喉を潰してたやも知れぬ……と思わされる。ボイトレというのは存外大事なのかもなと思います。録音も今とはだいぶ印象が違っていて、ガレージ感のある荒削りな音は今のキラキラした音像とはえらい違い。まるで爪や牙を隠すことも知らず剥き出しにした獣のよう。
と、今との違いについて先に述べましたが、田淵さんのソングライティング力やバンドの演奏力はすでにとても高く、今もライブでよく演奏されるM-6「箱庭ロック・ショー」がここに収録されているあたりにそれを感じます。M-3「さよなら第九惑星」のパンキッシュな演奏は荒っぽさもがありますが、ドラムの手数の多さやうねるベースラインなど、スリーピースとは思えない音の分厚さはこの頃から健在です。
6曲中2曲がスローなテンポでありながら、ボーカルの刺々しさの印象からアルバム全体としては焦燥感の占める割合が高く、発展途上という感じもします。しかしこの若さ故に生き急ぐような勢いや、尖ったところを隠そうともせずにいる結果のアンバランスさは、もしかすると今のユニゾンには出せないものなのかもしれません。
UNISON SQUARE GARDEN『流星前夜』 8.3/10.0
- アーティスト: UNISON SQUARE GARDEN
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インディーズ時代のミニアルバムその二。前作『新世界ノート』と比べてみると、アルバムの完成度が格段に上がったように思える。録音やアルバム構成などに、今のユニゾンとの繋がりをより感じられます。ポエトリーリーディングであるM-1「流星前夜」からM-2「フルカラープログラム」へのノータイムでの繋ぎなんかその典型ではないでしょうか。以降の作品との関係で言えば、『DUGOUT ACCIDENT』の「プログラムcontinued」は「フルカラープログラム」から繋がる曲だし、『Dr. Izzy』収録の「8月、昼中の流れ星と飛行機雲」はM-4「2月、白昼の流れ星と飛行機雲」を思い出させるタイトル・音像でした。
さて、前作では今からはほとんど想像できない歌声だった斉藤さんですが、今作のボーカルは前作の刺々しさを残しつつ、そこに透明感もブレンドされており、今の歌声にだいぶ近づいています。曲を聴いていて、歌声に「かっこいい!」と思うことは実はあんまりないのですが、このボーカルはめちゃくちゃかっこいいなと思います。この頃の歌声が一番好きかもしれません。
M-3「水と雨について」のようなロックな曲もあればM-5「MR.アンディ」のようにポップな曲もあり、それぞれを高い精度でやってのけている。この振れ幅こそUNISON SQUARE GARDENの良いところだと思うし、この時点で一度その完成形を見せた名盤だと思います。
余談ですがジャケットも死ぬほど好きです。
UNISON SQUARE GARDEN - 水と雨について(PV)
ベースソロがかっこいい。
おわり。
Brian the Sun『SUNNY SIDE UP』 スピッツ『スーベニア』
久々にアルバムの感想文を書きました。最近聴いていた2枚です。特に関連はなし。
今回は試しに点数をつけてみましたが、完全にフィーリングなので深い意味はありません。明日には変動していることでしょう。
Brian the Sun『SUNNY SIDE UP』 7.0/10.0
M-1「隼」の夏感が好き。夏曲と言うととかく爽やかさがフィーチャーされがちで、実際この曲にもそういった爽やかな面はあるのですが、サビの音の下がり方やラスサビの半音上がるところに、それとは裏腹なメランコリーも感じられる。夏の空は見上げればあまりに眩しくて、立ち尽くすと夢か現か分からなくなる瞬間があります。そこに見えた幻の「君」、だけどその影はすぐに消え去ってしまい、空を翔ける隼に「君」を重ねて「僕」はようやく愛を知る、なんて。こういうセンチな歌詞好きです。
Brian the Sun 『隼』Music Video(Short ver.)
M-2「Sunny side up」もこれまた爽やかでキャッチー。ドラムがいい味出しています。この曲で思い浮かべるのはボーイミーツガール。目玉焼きのモチーフがついたヘアゴムでサイドアップにしてる女の子が登場します。
この2曲ばっかり聴いていて他はあんまりなのですが、「猫のいる風景」なんかもメロディがグッドです。「天国」も良い雰囲気だけど長い。「光」は間奏でリズムを崩した後に愚直なギターソロぶち込んでくるのがダサかっこいい。全体的に、前作『パトスとエートス』とは作風が全然違うのですが、アンニュイさのあるボーカルが相変わらずなおかげでそこはそんなに気にならない。かなり意識が外に開けたミニアルバムであるように感じました。全5曲、ほとんど2分半~3分半と短いのでサクッと聴けます。
スピッツ『スーベニア』 7.3/10.0
- アーティスト: スピッツ
- 出版社/メーカー: ユニバーサルミュージック
- 発売日: 2005/01/12
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最近「みそか」がお気に入りで聴いてるアルバム。バラエティに富んでいて、個々に良い曲は多くある一方、アルバムとしての統一感、まとまりは少し弱いなという印象にありました。特に前半が歪な感じ。ストリングスが用いられた装飾過多なM-2「ありふれた人生」から、ヘヴィなリフを中心に展開するM-3「甘ったれクリーチャー」の流れとか、どんなテンションで聴けばいいかよく分からないというのが正直なところ。まあ俺がカラーのはっきりしたアルバムが好きというのもあるんですけど。
しかしM-6「正夢」からM-7「ほのほ」の流れは美しいなと思うし、ここからの構成は勢いがあり、程よく緩急もついていて好き。M-8「ワタリ」なんかもかっこいいのですが、M-9「恋のはじまり」、M-10「自転車」が良いなと思います。「自転車」の跳ねるリズムから疾走感溢れるM-11「テイタム・オニール」のイントロへ、ここの流れも熱い。最後を飾るM-13「みそか」はBメロ〜サビの盛り上がりがグッときます。
前半5曲くらいの雑多な印象が強くてあんまり後半まで聴こうと思ってなかった作品ですが、いざ聴いてみると、今まで聴いてなかった後半部分こそ自分の好きな感じだったという、少しもったいないパターンでした。こうやって書くと前半の印象が良くなく見えてしまいますが、なんだかんだ言って曲は良いのです、そこはやはりスピッツクオリティとでも言うべきか。個人的に前半では「ナンプラー日和」が好き。
おわり。