Brian the Sun『パトスとエートス』

 

パトスとエートス

パトスとエートス

 

 Brian the Sunをきちんと知ったのはアニメ「僕のヒーローアカデミア」 のEDでした。疾走感のある、シンプルなギターロック。ロックというかポップというか、それはさておき。


Brian the Sun 『HEROES』Music Video

 加えて今回はメジャー1stフルらしい。そこまで考えると、アルバムの内容もなんとなく想像できそうな気がしませんか。初っ端からがっつりギター掻き鳴らしてくるのかなみたいな。まずキャッチーでノリの良い曲来るかなみたいな。そのノリで最後までいくのかなみたいな。

 

 しかしその予想は見事に裏切られることになりました。CDを再生してまず聴こえてくるのは静かに鳴るスネア、そしてエレキギターのアンニュイなサウンド。疾走感なんてカケラもないゆったりした曲がこのアルバムの始まりを告げるのです。ふつーアルバムの7,8曲目くらいにありそうな曲が1曲目なんてそんなのありか。

 それが打って変わって2,3曲目は、あんたらはArctic Monkeysか! と言いたくなるような、あの1st,2ndを彷彿とさせる性急なビートで攻めてくる。サウンド面では個人的にArctic Monkeysに軍配が上がりますけど、まあそこは好みもありましょう。物憂げな雰囲気を持ったメロディだとか、あまり鳴りすぎないけれど鋭いリフやフレーズをいいところに挟むリードギターなんかがBrian the Sunの持ち味なのかなと、ここまでの流れでなんとなく分かってきます。


Brian the Sun 『パトスとエートス』Music Video Short Ver.

 この流れで聴いてみると、ヒロアカの主題歌だった「HEROES」はあんまりリードギターが主張してこない曲だったことに気付かされます。3曲目のリードトラック「パトスとエートス」が要所要所でどの楽器もフレーズを重ねてくるような曲だったのだけど、逆に「HEROES」はびっくりするくらいシンプル。そこにまたバンド感を感じるのです。上に特徴として物憂げなメロディと書いたばっかりなのに、この曲はそれどころかカラッと爽やか。ほんとに同じバンドかよ。サビのメロディをなぞり始めるギターソロは正直ちょっとださいなと思っちゃうけど、デク(ヒロアカの主人公)がこういう王道なの好きそうだなと思うと全然許せる(オタクの感想)。続く「Cold Ash」もシンプルなギターロック。疾走感のある中に《誰かの言葉に心をやられてしまった》など内省的な歌詞が見えるのが印象的。1曲目の選曲といい、この曲を「HEROES」の後に歌うことといい、結構ひねくれてるバンドですな。

 アルバムの中で一番好きなのは次の曲「Maybe」。とにかくメロディが良いんです。この何とも言えない切なさ。是非夜に聴きたい。それと、しっとりしたリードギターもまた良いのですが、ベースの音もなかなか人間臭くて好きなのと、Bメロとサビのリズムがとにかくお気に入り。ラスサビの前にもう一度Bメロが来るのもいい。ここまではっきりとリズムを気に入るパターンは俺はなかなかないのだけど、この曲は聴くたび指でリズムとってしまう、聴いてなくても気付かないうちに同じリズムをとり始めてしまう。それくらい気に入ってます。


Brian the Sun 『Maybe』Music Video(前編)

 で、またギターロックに戻るのかなと思っていたら今度はダンサブルなピアノナンバー「アイロニックスター」と来て、お次はやけっぱちなギターリフが強烈な速い曲「Mitsuhide」。2,3曲目で見せたリフの鋭さを違った角度から投げてくるここの流れも結構好き。

 ラストはバラード。ほとんどピアノだけのこの曲が、どこまでも内省的なアルバムだったことを示すかのように最後に配置され、余韻とともにアルバムを締め括るのでした。

 メジャー1stフルだと言うのに作品として割と地味というか、思ったより力んでないなという印象を受けますが、四人で鳴らしてるところを想像できるようなバンド感はばっちりあります。ギターと歌との距離感が独特で、歌をメインに据え、ギターはおかずとして鳴っている感じが強いのが、俺の知ってる他の若手バンドとの大きな差かなぁと。リード曲も派手じゃないけどかっこいい。このアルバムを聴く限りでは、とにかくキャッチーであることや、大きな舞台でドカンと一発打ち上げることにあんまり重きを置いていなさそうな、性格としてわりと渋いバンドなのかなという風に思うのですが実際のところはどうなんですかね。それにしても「Maybe」が好きすぎて、なんかこれ聴けただけで俺は満足かもしれない。

 

 ところでパトスは「衝動」など一時的なもの、エートスは「習慣」や「性格」といった持続的なものを意味するギリシャ語なのですが、パトスとはpathosと綴りまして、これを英語で読むとペーソスとなり、「哀愁」という意味を持ちます。今回のアルバムは男性的な、角のあるパトスサイドな曲と、女性的で、丸くて柔らかいエートスサイドの曲とに分けられるとインタビューでは言っていたのだけど、ペーソスの意味を踏まえて聴いてみると、エートスサイドだと思われる曲も歌ってることはエートスというかペーソスだったし、もはやタイトルは『パトスとペーソス』が正しいんじゃないか? しかしそうであるならばアルバムは通して「pathos」を歌ってるわけだし、その姿勢がエートスであろうことを思えばやっぱり『パトスとエートス』が正しいのだ! というくだらない問答の果て、結局タイトルに納得したことをここに書いて筆を置くことにします。

 おわり。