the pillows『NOOK IN THE BRAIN』

 

NOOK IN THE BRAIN (初回限定盤(CD+DVD))

NOOK IN THE BRAIN (初回限定盤(CD+DVD))

 

 

 ギターロックと名乗るならば、やはりギターが格好良くなくちゃいけない。リフ一発で聴き手を捕らえて放さないような、歪んだサウンドで頭を吹っ飛ばすような、そういう、無敵のギターだ。
 その点で言えば、the pillowsの新作『NOOK IN THE BRAIN』は完璧じゃないだろうか。特に「王様になれ」「Hang a valture!」「パーフェクト・アイディア」の流れがかっこよすぎる。ギターが死ぬほどイカしてる。前作『STROLL AND ROLL』はギターリフでピンとくるものは少なかったが、今作はギターがサウンドもリフもとにかく格好良い。メロディーも良く、特に「ジェラニエ」はここ数年では随一といえるほどメロディーの立った曲だと思う。

 

 難点を上げるとすればサラッとしすぎなところだろうか。一番長い曲は「pulse」で4分50秒ほどだが、残りの曲は全て4分に満たず、全体を通しても30分しかない。最近であれば「カッコーの巣の下で」のような聴かせる曲が今作にはないこともあり、聴き終わったあとのカタルシスは薄め。だがその収録時間の短さとシリアスさを感じさせない雰囲気はリピートを誘うようで、思わず何度も聴いてしまう。

 

 今作を聴いて俺は『MY FOOT』を思い出した。他にも、過去の様々なアルバムを彷彿とさせる要素が随所に散りばめられている(特に「王様になれ」はまさにその宝庫だ!)。この作品は特別新しいことをやっているわけではなく、今までやってきたことを今のバンドのカラーでアレンジした、というイメージの一枚で、the pillowsの根本は変わらないということばかりでなく、今のバンドの熱量もひしひしと感じさせてくれる。最近のアルバムよりも昔のアルバムを好きと言うファンが多い印象にあるthe pillowsだが、そんなファンにも是非聴いて欲しい。何も目新しいことばかりが良いこととは限らないのです。変わらずに変わることを体現した一枚。

 おわり。


the pillows "王様になれ" MV (full ver.)

SHISHAMO『SHISHAMO 4』

 SHISHAMOの新譜がとても良い。

SHISHAMO 4

SHISHAMO 4

 

  去年の3rdが何度聴いても良いアルバムだし、次も期待できるなぁと思っていたところに届いた4th。それは実際期待通りで、一聴したときは「ふむふむ期待してた通り良いアルバムだなぁ」という感想を抱いた。しかしまあ、「期待通り」というのは「高水準な当たり前」というわけで、良い出来だけど主だって語るところないなーというか、「良いアルバムでした!」と言う他ないよな、と思っていた。

 しかしだ。いくら良いアルバムでもずっと聴いていればいつかは飽きる。はずなのだが。この『SHISHAMO 4』、どれだけ聴いても全然飽きない。しかも気づいたら鼻歌を歌っている。そして俺はようやく「あっこれ期待通りどころじゃない」と気づいたわけです。知らぬ間にメロディが染み付いている……。これこそがこのアルバムのすごいところではないか、と。

 一口にキャッチーと言っても、強烈なインパクトはあるけどすぐ飽きてしまうものもあれば、衝撃はさほどでも聴くとなんだか落ち着いてしまうような、いつでも聴けるようなものもあって、今作は完全に後者だったわけです。SHISHAMOに対して、aikoみたいだと言う感想をよく見かけてきたのですが、なるほどそういうことかと完全に納得。と言ってもaikoは全然知らないので、それで納得も何もないのだけど。いや何も知らないことはないよ、「花火」とか好きだよ。話がそれました。何が言いたいかというと、SHISHAMOはもう「J-POP」のアーティストだということ。「キャッチーなメロディ」が人の心を掴まえる範囲が、いわゆる「邦ロック」ファンを軽々飛び越えても全然不思議じゃないと俺は思うわけです。


SHISHAMO「明日も」

 

 今までは女の子女の子してるなぁと思うだけで特に何とも感じていなかった歌詞が、今作ではスッと入ってくるのも驚きでした。一曲目の「好き好き!」ではまるで少女漫画を読んでいるような気分になるし、「終わり」のただ悲観的な感情を吐露するような歌詞も、パンキッシュなビートと相まって真に迫っている。そして個人的に最高だと思うのが「音楽室は秘密基地」。老若男女誰でも入り込める見事なストーリーテリングは、NHKのこどものうたに起用されるのも納得の一言。それを親しみやすいメロディで歌うSHISHAMOのどこにケチをつけられよう。

 

 音の使い方も見事。「音楽室は秘密基地」で挟まるピアノの音はここぞってとこだし、「きっとあの漫画のせい」のサビ裏で鳴っているギターはメロディアス。「明日も」はホーンを入れながらもバンドらしいタイトな疾走感を感じさせる一方、「魔法のように」は楽器隊がギター、ベース、ドラムという最小限の構成であるのにこのキラキラ感。天才か。


SHISHAMO「魔法のように」

 

 1st~2ndアルバムあたりは「フェスに出てるようなバンド」感があって、(このままだと飽きられるんじゃないかな)と心配したりもしてたのだけど、そんな心配する全然必要なかったなぁと思うほどに良い曲を連発しているのが嬉しい。

 SHISHAMOをリアルタイムで追いかけることができているの、俺の音楽ライフで結構重要なトピックだと思っております。これからの活動も楽しみで仕方がない。とはいえ新曲が出なくても、いつまでも3rdや4thを聴いていられそうだ。

 おわり。

ASIAN KUNG-FU GENERATION『ファンクラブ』

 最近ASIAN KUNG-FU GENERATIONを聴こうと思った時、『ファンクラブ』ばかり選んでしまう。自分の最近の音楽の好みで言えば間違いなく『ソルファ』か『サーフ ブンガク カマクラ』だろうに。なんで自分が『ファンクラブ』を夢中になって聴いてるのかさっぱり分からない。しかし、一度(あ、俺『ファンクラブ』にハマってんのかなぁ)と思うと、その理由を考えるためにまた聴いたり、昨日も聴いたし今日も聴こうという感じで聴いたり、もはやどツボにハマっています。もうこれ理屈じゃないですね、体が求めてますね。

ファンクラブ

ファンクラブ

 

  ジャケットにも表れている内省的でモノクロな世界観とややこしい楽曲たちのおかげで、聴いていても盛り上がらないというのと、今の自分の精神状態が妙にマッチするのかもしれない。だからでしょうか、「ワールドアパート」とかむっちゃ飛ばしたくなる。「路地裏のうさぎ」もこれだけだったらたぶん聴かないが、次の「ブルートレイン」への流れが大好きなので飛ばさない。余韻を突き刺すギターの鋭い音が見事なまでに気持ちいいのだ。「ブルートレイン」や「センスレス」のイントロが鳴り出すと心のうぶ毛がザワッと逆立つような、薄暗い部屋でニヤァ…っとしてしまうような、謎の高揚。こんなの誰かと共有するもんじゃない。暗い部屋で毛布に包まって膝抱えたままでも俺は興奮できるのだ。此処には俺一人だが、此処には一人で十分なのだ。聴いているみんなと繋がってるぜ一人じゃないぜなんて音楽聴いてられるか。そういう距離感で聴けるから『ファンクラブ』を選んでるのかもしれない。書いていて気づいた。

 なんてことを考えながら、「月光」「タイトロープ」の流れで俺は一人のまま真っ白になって消えていくのです……。

 おわり。


ASIAN KUNG-FU GENERATION 『ブルートレイン』